企業に求められるカスタマーハラスメント対策とは-従業員を守るために、今からできる備え-
2026年7月31日
ここ数年、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という言葉を耳にする機会が増えました。以前は接客業の問題として取り上げられることが多かったのですが、現在では営業、受付、コールセンター、医療・介護など、お客様と接するさまざまな職場で課題となっています。
私自身も企業の方からご相談を受ける中で、「どこまでがお客様への対応で、どこからがカスタマーハラスメントなのか判断が難しい」という声を聞くことがあります。
お客様を大切にすることは企業にとって欠かせない姿勢です。しかし、その考え方だけでは現場を守れない場面があるのも事実です。
過度な要求や暴言に担当者が一人で対応し続け、精神的な負担を抱えてしまうケースは決して珍しくありません。
だからこそ今、企業には「お客様を大切にすること」と「従業員を守ること」の両方を考えた体制づくりが求められています。
令和7年には労働施策総合推進法等が改正され、事業主にはカスタマーハラスメント対策を講じることが義務付けられました。愛知県では「愛知県カスタマーハラスメント防止条例」が施行され、名古屋市でも基本方針が示されています。
今回は、カスタマーハラスメントの基本的な考え方と、企業が日頃から備えておきたい対策についてご紹介します。
カスタマーハラスメントとは
お客様から寄せられる苦情やご意見は、企業にとって大切な情報です。商品やサービスを見直すきっかけになることも少なくありません。
ただし、お客様からの要望だからといって、すべてに応じなければならないわけではありません。
厚生労働省では、カスタマーハラスメントを「顧客等からの言動のうち、要求内容に照らして手段や態様が社会通念上相当な範囲を超え、それによって労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。
では、どのような行為がカスタマーハラスメントに当たるのでしょうか。
判断に迷う場面もありますが、現場では次のようなケースが問題となることがあります。
- 大声で怒鳴ったり、人格を否定するような発言を繰り返したりする
- 長時間にわたって対応を求め、通常業務に支障を及ぼす
- 土下座や必要以上の謝罪を強要する
- 商品やサービスとは関係のない要求を執拗に繰り返す

もちろん、企業側に不備があれば誠実に対応し、改善につなげることは当然です。
一方で、社会通念を超える要求まで受け入れる必要はありません。
正当な苦情と迷惑行為を区別し、組織として対応することが、従業員を守ることにもつながります。
なぜ企業の対応が求められているのか
カスタマーハラスメントへの対応が求められる背景には、慢性的な人手不足もあります。
採用が難しくなっている今、一人の従業員が精神的な負担から離職してしまうことは、企業にとって決して小さな問題ではありません。
採用や教育には時間も費用もかかります。経験を積んだ従業員が離職すれば、現場の雰囲気やサービス品質にも影響が及びます。
こうした状況を踏まえ、法整備も進められました。
令和7年に改正された労働施策総合推進法等では、企業に対してカスタマーハラスメント防止のための雇用管理上の措置を講じることが義務付けられています。施行は令和8年10月1日の予定です。
愛知県でも令和7年10月に「愛知県カスタマーハラスメント防止条例」が施行されました。
この条例では、行政だけでなく、事業者、就業者、顧客がそれぞれの立場で役割を果たしながら、カスタマーハラスメントのない社会を目指すことが基本理念として掲げられています。
名古屋市でも、相談体制の整備や対応マニュアルの作成などを盛り込んだ基本方針が策定されています。
こうした動きを見ると、カスタマーハラスメントは一企業だけの問題ではなく、社会全体で取り組むべき課題になっていることが分かります。
日頃から備えておきたい対策
カスタマーハラスメント対策は、問題が起きてから考えるものではありません。
日頃から備えておくことで、実際にトラブルが発生した際にも落ち着いて対応しやすくなります。
最初に取り組みたいのは、会社としての基本方針を明確にすることです。
「従業員の人格と尊厳を守る」「カスタマーハラスメントには組織として対応する」といった姿勢を社内外へ示すことで、従業員も安心して業務に取り組めます。
最近では、店舗や施設の入口に対応方針を掲示する企業も増えてきました。相談しやすい体制を整えることも欠かせません。
実際のご相談でも、「担当者によって対応が違う」「どのタイミングで上司へ相談すればよいか迷う」といった声を耳にします。担当者一人の判断に任せるのではなく、会社として対応基準を共有しておくことが大切です。対応マニュアルや研修も、そのために役立ちます。
例えば、「このような場合は上司へ引き継ぐ」「一定時間を超えた場合は複数人で対応する」といったルールを決めておけば、担当者が一人で抱え込まずに済みます。
万一トラブルが発生した際は、やり取りの内容や日時、対応の経過を記録しておきましょう。
客観的な記録が残っていれば、組織として適切な判断がしやすくなり、再発防止にも役立ちます。
従業員を守ることが企業の信頼につながる
「お客様を大切にすること」と「従業員を守ること」は、どちらか一方を優先するものではありません。
安心して働ける職場だからこそ、従業員は落ち着いてお客様と向き合うことができます。
その積み重ねがサービス品質の向上につながり、企業への信頼にも結び付きます。
また、従業員を大切にする企業であることは、採用活動においても大きな強みになります。
人材不足が続く今だからこそ、安心して働ける職場づくりは企業価値を高める大切な取組みといえるでしょう。
カスタマーハラスメントは、どの業種にも起こり得る問題です。
法改正への対応としてだけではなく、従業員が安心して働ける職場づくりという視点からも、一度自社の体制を見直してみてはいかがでしょうか。
企業を支えるのは「人」です。
従業員を守るための取組みを積み重ねることが、結果としてお客様からの信頼につながり、長く選ばれる企業づくりにつながるのではないでしょうか。
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